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イスタンブールのへそのゴマ
フジイ・セツコ
定価:本体価格1600円+税
(税込価格1728円)














解説
旅行人の本
季刊『旅行人』


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購入方法



プロローグ

 初めてトルコに来たのが、1990年の5月。会社からむりやり13日間休みをとって、友人と2人で旅をした。新緑の5月は風もさわやか。モスクを見るのもアザーンを聞くのも新鮮で、ワクワクしながら毎日が過ぎた。
 しかし、あまりにワクワクしすぎたのか、カッパドキアで熱を出し、下痢も重なりダウンした。その日は、他の街に行くことになっていたのに。
「熱がある? そりゃ大変だ。いつまででもいていいよ」
 ペンションのおじさんにこんなふうに言われて気が楽になったのか、私はなぜか心安らかに眠りについた。
 ウトウトしながら、ゆっくりと1日が過ぎていく。窓の外からいろんな音が聞こえてくる。遊んでいる子供たちの声。原付の、ト、ト、ト、ト……という音。 おばさんたちのおしゃべり。どこかの家から聞こえてくるテレビの音。物売りの声。なんだかとても懐かしい音たち。ずっと忘れていたものを思い出した。ひさ しぶりに心からゆっくりした。
 リラックスしたのが良かったのか、1日で元気になり、再び旅を続けた。それからはどこに行ってもなにやら懐かしく、時間はゆっくり流れ、妙な感覚で旅を終えた。

 カッパドキアのベッドの上で、懐かしい音たちを聞かなかったら、トルコにいなかったんじゃないかな、と思う今日このごろ……。