アフリカの満月

¥1,760 (税込) 本体価格:¥1,600

見上げれば満月。
アフリカの満月。
そして、満天の星。
海にも、空にも、
光が満ちていた。

前川ノンフィクションの新境地を拓く、アフリカ紀行

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説明

前川健一 著

2000年4月21日発行

 

【 目次から 】

ナイロビ・リバーロード
おいしい誘惑
揺られ揺られて
アフリカの満月
密航
私書箱31号、ロドワー
ナイロビ落し魔事件
バラックめし屋の日々
カンパラ・サバイバル
ナイル病床記
地中海を渡って、アテネ

追加情報

サイズ 387 mm

立ち読み

神田の古書店街を吹き抜ける風が、もうすぐ冬がやって来ると告げていた。木造の古く小さな古本屋は、カビの匂いとともに石油ストーブのいやな匂いがした。 冬は嫌いだが、これから春が来るという喜びがある極寒の二月は、晩秋よりもまだましだ。11月の木枯らしは、これから長く居座る冬の到来を告げているか ら、気が滅入る。こんな季節の日本にはいたくないから、秋になると渡り鳥に姿を変えて、南の空に飛んでいきたくなる。どんなにあこがれても鳥になれない私 は、手元のカネをかき集めて熱帯に移動する準備に入っていた。
その年最後の古本屋歩きは、熱帯植物と熱帯農業の本を探していた。東南アジアの食文化について知りたいことはいくらでもあったが、そんな本はまだ出版さ れていなかった。そこで、基礎知識を得るために、まずは熱帯の野菜や香辛料に関する資料を集めることから始めていた。これから先何年かかるかわからない が、東南アジアへの旅をくりかえし、いつの日か東南アジアの食文化の本を書きたいと思っていた。
古本屋の店頭の特価本コーナーを眺めていたら、アフリカの本が目に入った。書名がスワヒリ語だから、それがひらがなで表記されていてもケニアに関する本 だとすぐにわかった。その年の夏までかかって、東アフリカの本を書いていた。その前の年は、東アフリカを中心に旅をしていた。ここ何年かアフリカ関係の本 を読んできたから、読んでおかなければいけない重要な本は、あらかた目を通している。特価本コーナーにあるその本はいままで見たことがないが、企業駐在員 の滞在記らしいからなんの参考にもならないだろうし、読んだっておもしろくはないだろうと思った。そして、そんな理由とは別に、「アフリカのことはもうい い」という気がしていて、アフリカの本をマメに探そうという熱意はもはやなくなっていた。
アフリカから戻ってほぼ1年たち、心のなかのアフリカがだんだん遠くなっていくのを感じていた。やはり、日本からアフリカは遠い。地理的な距離だけでな く、心理的にも遠かった。日本で生活していて、アフリカを感じることはめったになかった。日本のテレビでアフリカを取り上げることはあまりなく、その数少 ない機会はたいてい野生動物を扱った番組だったから、チャンネルをあわせることもなかった。私のアフリカには、ライオンもハイエナもいなかった。インパラ を襲うチーターもいなかった。
駐在員が書いたその本を手に取りながら、目は別のおもしろそうな本を探していた。熱帯の旅に持っていく、捨てても惜しくない安い本を探していた。
視野の隅に、カラー写真が見えた。左手に持っているアフリカの本のページがめくれて、口絵が見えた。若い女のポートレイトだ。褐色の肌の女。
ムルキ。まさか……。
間違いない。ムルキだ。写真とはいえ、こんなところで彼女と再会するとは、なんとも奇妙な巡り合わせだ。木枯らしが吹き、コートの襟を立てて古書店街を足早に歩いて行く人たちのなかで、私は熱帯の高原を感じていた。
彼女とは、顔見知りというよりはもっと深い関係ではあるが、友人ではなく、ましてや恋人だったわけでもない。それでいながら、同じ部屋で数か月間いっ しょに過ごしたわけだから、おそらくルームメイトと呼ぶのが最もふさわしいのかもしれない。彼女はじつに変なルームメイトだった。そして、彼女にとって私 もまたなんとも変なルームメイトだったにちがいない。
買わないと決めていたその本を、買った。帰宅して、バッグからその本を出して机に置くと、ナイロビの風景が蘇ってきた。赤道から少し南の街でブラブラしていた頃のことを、日記など見なくても細部まで思い出した。

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アフリカの満月 に対するレビュー1件

  1. WEB 管理

    【読者はがきによるレビューのため、管理者が投稿しています】

    ●前川健一のアフリカは、前川健一のアジアと同じように面白い!◆N・N/46歳

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