説明
蔵前仁一 著
2001年9月16日発売
『新ゴーゴー・インド』のためのまえがき(抜粋)
僕はその後、何度もインドを旅している。『インドは今日も雨だった』(世界文化社)という本も書いた。つい最近(2001年4月)も、本書のためにイン ドに行ってきたばかりである。バナーラスに一か月いたが、ここは当時と驚くほど変わっていない。ガンジス川沿いのガート(沐浴場)に立って見える景色は、 17年前とまるで同じなのである。僕だけが歳を取ってしまったような気分になった。路地裏の建物も基本的に古いままのものだし、表通りの家並みもほとんど 変わってはない。
バナーラスはご存知のようにインド最大の聖地である。古い聖地をできるだけそのままにしておこうということで、ガンジス川沿岸の建築物は法律で保護され ているらしいが、裏の路地も表通りにもさしたる変化は見られなかった。強いてあげれば、表通りに渦巻くように走っていたリキシャの数がいくぶん減ったよう な気がするのと、路地裏に旅行者向けのホテルやレストラン、そしてインターネット・カフェが増えたことである。
このことはバナーラスのような聖地に限らず、例えばニュー・デリーのメイン・バザールやカルカッタ(現コルカタ)のサダル・ストリートでも同じである。両方とも旅行者がよく行く安宿街だが、僕が初めてインドを訪れた頃から、町の感じはほとんど変わっていない。
もちろん当時あったホテルがなくなっていたり、新しいレストランができていたりといった変化はあるが、その程度の変化なのである。中国および東南アジアの 都市やリゾート地のように、ここ10年で激変して、昔の面影をすっかり失ってしまったのとまったく様相が異なっている。これがインドらしいといえばいえる のかもしれない。
インドは昔とちっとも変わっていない、などといったらインド人に叱られるだろう。僕のような旅行者には見えないところで、インドだって変化している。イ ンド人にいわせればインドは進化している。しかし、それでもインドは変わらない何かを持ち続けていると頑固に言い張ってしまおう。その何かとは、僕がイン ドに最もインドらしいと感じていた何かだが、そのことを本書を読んで読者に感じていただければ、僕としてはこれにまさることはない。
蔵前仁一
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